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”予、倩(つらつら)、事の情(こころ)を案ずるに、大師、薬王菩薩として、霊山会上(りょうぜんえじょう)に侍して、仏、上行菩薩出現の時を、兼ねて之を記したもう故に、粗(ほぼ)、之を喩(さと)すか。而(しか)るに、予、地涌(じゆ)の一分に非ざれども、兼ねて此の事を知る故に、地涌の大士に前立(さきだ)ちて、粗(ほぼ)、五字を示す。例せば、西王母(せいおうぼ)の先相には、青鳥、客人の来るには、鸛鵲(かんじゃく)、の如し。此の大法を弘通せしむるの法には、必ず、一代の聖教を安置し、八宗の章疏(しょうじょ)を習学すべし。然(しか)れば、則(すなわ)ち、予、所持の聖教、多多之有り。然(しか)りと雖(いえど)も、両度の御勘気、衆度の大難の時は、或は、一巻二巻、散失し、或は、一字二字、脱落し、或は、魚魯の謬?(あやまり)、或は、一部二部、損朽(そんきゅう)す。若(も)し、黙止(もだ)して、一期(いちご)を過ぐるの後には、弟子等、定(さだ)んで、謬乱(びゅうらん)、出来(しゅったい)の基なり。爰(ここ)を以って、愚身、老耄(ろうもう)已前に、之を糾調(きゅうちょう)せんと欲す。而(しか)るに、風聞の如くんば、貴辺、並びに、大田金吾殿、越中の御所領の内、並びに、近辺の寺寺に、数多の聖教あり、等、云云。両人、共に、大檀那、為(な)り。所願を成ぜしめたまえ。涅槃経に云く、「内には、智慧の弟子有って、甚深(じんじん)の義を解(さと)り、外には、清浄の檀越(だんのつ)有って、仏法、久住せん」、云云。天台大師は、毛喜(もうき)等を相語らい、伝教大師は、国道弘世(くにみちひろよ)等を恃怙(たの)む、云云。
仁王経(にんのうきょう)に云く、「千里の内をして、七難、起らざらしむ」、云云。法華経に云く、「百由旬(ひゃくゆじゅん)の内に、諸の衰患(すいげん)無からしむ」、云云。国主、正法を弘通すれば、必ず、此の徳を備う。臣民等、此の法を守護せんに、豈(あに)、家内の大難を払わざらんや。又、法華経の第八に云く、「所願、虚しからず。亦(あに)、現世に於て、其の福報を得ん」。又、云く、「当(まさ)に、今世に於て、現の果報を得べし」、云云。又、云く、「此の人は、現世に白癩(びゃくらい)の病いを得ん」。又、云く、「頭(こうべ)、破れて、七分と作(な)らん」。又、第二巻に云く、「経を読誦し、書持すること有らん者を見て、軽賎憎嫉(きょうせんぞうしつ)して、結恨(けっこん)を懐かん。乃至(ないし)、其の人、命、終して、阿鼻獄に入らん」、云云。第五の巻に云く、「若し、人、悪(にく)み、罵(ののし)らば、口、則(すなわ)ち、閉塞せん」、云云。伝教大師の云く、「讃する者は、福を安明(あんみょう)に積み、謗ずる者は、罪を無間に開く」、等、云云。安明とは須弥山(しゅみせん)の名なり。無間とは、阿鼻の別名なり。国主、持者を誹謗せば、位を失い、臣民、行者を毀呰(きし)すれば、身を喪(ほろぼ)す。一国を挙(こぞ)りて、用いざれば、定めて、自反他逼(じほんたひつ)、出来(しゅったい)せしむべきなり。又、上品(じょうぼん)の行者は、大の七難、中品の行者は、二十九難の内、下品の行者は、無量の難の随一なり。又、大の七難に於て、七人有り。第一は、日月の難なり。第一の内に、又、五の大難有り。所謂(いわゆる)、日月、度を失し、時節、反逆(ほんぎゃく)し、或は、赤日(しゃくじつ)出(い)で、或は、黒日、出で、二三四五の日出ず。或は、日蝕して光無く、或は、日輪、一重、二三四五重輪、現ぜん。又、経に云く、「二の月並び出でん」、と。今、此の国土に有らざるは、二の日・二の月、等、の、大難なり。余の難は、大体、之有り。今、此の亀鏡を以て、日本国を浮べ見るに、必ず、法華経の大行者、有るか。既(すで)に、之を謗る者に、大罰、有り。之を信ずる者、何ぞ、大福、無からん。
今、両人、微力を励まし、予が願に、力を副(そ)え、仏の金言を試みよ。経文の如く之を行ぜんに、徴(しるし)無くんば、釈尊、正直の経文・多宝証明、の誠言(せいごん)、十方分身の諸仏の、舌相、有言無実と為らんか。提婆の大妄語に過ぎ、瞿伽利(くぎゃり)の大誑言(だいおうげん)に超えたらん。日月、地に落ち、大地、反覆し、天を仰いで、声を発し、地に臥(ふ)して、胸を押(おさ)う。殷(いん)の湯王(とうおう)の玉体を薪(たきぎ)に積み、戒日大王の竜顔を火に入れしも、今、此の時に当るか。若(も)し、此の書を見聞して、宿習(しゅくじゅう)有らば、其の心を発得(ほっとく)すべし。使者に、此の書を持たしめ、早早、北国に差し遣(つかわ)し、金吾殿の返報を取りて、速速、是非を聞かしめよ。此の願、若(も)し、成ぜば、崑崙山(こんろんざん)の玉(ぎょく)、鮮かに、求めずして、蔵に収まり、大海の宝珠、招かざるに、掌(たなごころ)に在らん。恐惶謹言。”

(曾谷入道殿許御書、編年体御書P652、御書P1026)

(2005.06.28)
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