”秘密保護法”、の解説(すべて抜粋記事)



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●一般社団法人日本ペンクラブ 意見書「特定秘密保護法案に反対する」

 現在の日本社会において総合的な秘密保護法制は要らないし、むしろ作るべきではない。これが、日本ペンクラブの結論である。私たちはすでに、2011年11月30日付声明「秘密保全に関する法制の整備についての意見」において、この立場を明確に表明してきた。
 今般、政府によって「特定秘密の保護に関する法律案」が公表され、ごく短期間のパブリックコメント期間を経て、この秋の臨時国会に提出されようとしている。この法律案は、2年前に「秘密保全法案」として提出されようとしたものと内容的にほぼ同一であり、日本ペンクラブはこの法律案に対し、従前からの反対の立場を維持する。
 以下は、その理由であって、同時に今回のパブリックコメントで提示された法制度への意見である。

1.「特定秘密」に指定できる情報の範囲が過度に広範である
 法律案は、(1)防衛、(2)外交、(3)外国の利益を図る目的の安全脅威活動の防止、(4)テロ活動防止の4分野に関し、「わが国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要である」情報を「特定秘密」に指定するとしている。

 しかし示された別表を見ても、対象とされる情報の範囲が明確でなく、過度に広範である。例えば原発の安全性に関わる問題は、原発に対するテロ活動防止の観点から「特定秘密」に指定される可能性がある。しかしそうした情報の漏洩(内部告発)や取得(取材活動)が処罰されることになれば、国民は政策選択における必須の重要情報を知る機会を失うこととなりかねない。

2. 市民の知る権利、取材・報道の自由が侵害される
 市民の知る権利が侵害されることは、同時に取材・報道を行う側の取材・報道の自由が侵害されることを意味する。法律案によれば、「特別秘密」を漏えいする行為だけでなく、それを探る行為も、「特定取得行為」として、処罰の対象とされる。一例を挙げれば、特定秘密を扱う取材対象者が、事後的に「記者に欺かれました」と証言しただけで、取材者は訴追リスクにさらされることになる。しかも定められる罰則は長期10年の懲役と重い。
 法律案は外務省沖縄密約事件(西山記者事件)を例に、「正当な取材行為は保護される」とするが、何が「正当な取材行為」であるかは裁判所の事後的判断によらざるを得ない。大幅に加重された罰則による威嚇効果のもと、検察(政府)による訴追リスクの増大は、取材者や内部告発者にとって多大な萎縮効果を及ぼし、取材・報道の自由を侵害するものである。

3. 行政情報の情報公開の流れに逆行する
 政府は立法の必要性の理由として、各国での秘密保護法の存在を挙げている。しかし各国での秘密保護法の存在は、行政情報に関する徹底的な情報公開制度の整備が前提となっている。行政情報の情報公開は民主主義の大前提であり、世界的な潮流である。日本では行政情報についての情報公開制度の整備は他国より大幅に立ち後れており、いまだ国民の知る権利の確立が十分ではない。
 そうしたなか、秘密保全法制を推進することは、世界的な行政情報の情報公開の流れに逆行するものである。

4.「適正評価制度」はプライバシー侵害である
 さらにこの法律案の問題としては、新しく導入されることになる「適正評価制度」への懸念を挙げざるを得ない。これは、情報を管理する人の側に注目して、人の監視を強化することによって情報漏洩を防ごうとするものである。調査項目は、住所や生年月日だけでなく、外国への渡航歴や、ローンなどの返済状況、精神疾患などでの通院歴等々多岐にわたり、またその対象も公務員や業務受託を受けた民間人本人に留まらず、その家族や友人、恋人にも及ぶ可能性がある。
 このような「適正評価制度」はプライバシー侵害の領域に踏み込むものであって、容認できない。

5. このような法律を新たに作る理由(立法事実)がない

職務に応じすべての公務員には、国家公務員法ほか、情報の漏洩を防ぐための法制度が完備されており、今日に至るまで制度不備が具体的に指摘された事実はない。あえて屋上屋を重ねる法律を作ることの必要性が見い出せないばかりか、不必要な法律はえてして悪用されるものである。

そもそも、国民主権原理や憲法上の人権に重大な影響を与えるおそれのある立法が是認されるためには、そのような立法を必要とする具体的な事情、すなわち立法事実の存在が必要不可欠である。
 しかし、政府が立法事実として挙げる尖閣ビデオ事件については、非公知性や実質秘性について疑義が出され、真に守るべき秘密であるかどうか議論がある。警視庁公安情報流出事件は、漏洩元と見られる警視庁・警察庁がいまだに内部からの漏洩の事実を認めておらず、被害者への謝罪も行われていない。にもかかわらずこれを秘密保全法制の立法事実として挙げるのは二枚舌である。
 その他にも、過去10年程度の漏洩事例を見る限り、現行の公務員法等で規定する守秘義務で十分にカバーしうるものであって、新規に法律を必要とする理由付けはきわめて希薄であって説得力に欠ける。

 この法律案の検討の過程自体が非公開とされており、どのような必要性を前提に、どのような議論がなされ、このような重要な立法がなされようとしているのか、国民の側に知る手段が示されていない。そのこと自体が、この法律案の意図する将来社会の不健全な体質を物語っていると感じざるを得ない。

                                    以上

2013年9月17日

一般社団法人日本ペンクラブ

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中日新聞

【社説】
秘密保護法案 軍事国家への入り口だ

2013年9月13日


政府が進める秘密保護法案は、国が恣意(しい)的に情報統制を敷く恐れがある。「知る権利」と真正面から衝突する。軍事国家への入り口になってしまう。

自由や人権などよりも、国の安全保障が最優先されるという思想が根底にあるのだろう。政府が公表した秘密保護法案の概要を見ると、そんな印象を強く持つ。

かつて検討された法制と異なるのは、特段の秘匿が必要な情報である「特定秘密」の事項だ。(1)防衛(2)外交−は同じだが、「公共の安全および秩序の維持」の項目を(3)安全脅威活動の防止(4)テロ活動の防止−と改めた。 情報隠しが横行する

公共の安全や秩序維持の文言は、社会のあらゆる活動に投網をかけると強く批判されたため、今回は変形させたのだろう。

それでも問題点は山積だ。まず、特定秘密の指定範囲である。行政機関の「長」が別表で指定するが、中身があまりにも茫漠(ぼうばく)としている。防衛については十項目あり、「自衛隊の運用」が最初に規定されている。「運用」の言葉だけでは、どんな解釈も可能だろう。防衛相は恣意的に特定秘密のワッペンを貼り、さまざまな情報を国民の目から覆い隠せる。

現行法でも昨年末時点で、防衛秘密の指定事項は二百三十四件にものぼる。秘密文書も膨大となり、一昨年末では約八万三千点が隔離された状態だ。

外交分野でも同じだ。例えば「安全保障に関する外国政府との交渉」と別表に漠然と書かれているため、外相はいかなる運用もできよう。違法な情報隠しすら行われるかもしれない。

ある情報が特定秘密に本当にあたるかどうか、国会でも裁判所でもチェックを受けないからだ。形式的な秘密ではなく、実質的な秘密でなければならないが、その判断が行政の「長」に任されるのは、極めて危うい。

「知る権利」への脅威だ

安全脅威やテロの分野も解釈次第で、市民レベルの活動まで射程に入る恐れがある。

 言い換えれば、国民には重要でない情報しか与えられないのではないか。憲法は国民主権の原理を持つ。国政について、国民が目隠しされれば、主権者として判断ができない。秘密保護法案は、この原理に違背するといえよう。

 憲法には思想・良心の自由、表現の自由などの自由権もある。政府は「国民の知る権利や取材の自由などを十分に尊重する」と説明しているものの、条文に適切に生かされるとは思えない。

 特定秘密を取得する行為について、「未遂、共謀、教唆、扇動」の処罰規定があるからだ。あいまいな定めは、取材活動への脅威になる。容疑がかかるだけでも、記者やフリーランス、市民活動家らに家宅捜索が入り、パソコンや文書などが押収される恐れが生じる。少なくとも、情報へのアクセスは大きく圧迫される。
 「取材の自由」はむろん、「知る権利」にとって、壁のような存在になるのは間違いない。政府は「拡張解釈し、基本的人権を侵害することがあってはならない」旨を定めると言うが、憲法で保障された人権を侵してはならないのは当然のことである。暴走しかねない法律だからこそ、あえてこんな規定を設けるのだろう。

 驚くのは、特定秘密を漏らした場合、最高で懲役十年の重罰を科すことだ。現在の国家公務員法では最高一年、自衛隊法では五年だ。過去のイージスシステムの漏洩(ろうえい)事件では、自衛官に執行猶予が付いた。中国潜水艦に関する漏洩事件では、起訴猶予になった。現行法でも対処できるのだ。重罰規定は公務員への威嚇効果を狙ったものだろう。

 そもそも誰が特定秘密の取扱者であるか明らかにされない。何が秘密かも秘密である。すると、公務員は特定秘密でない情報についても、口をつぐむようになる。ますます情報は閉ざされるのだ。

 しかも、国会の委員会などで、公開されない秘密情報も対象となる。つまり国会議員が秘書や政党に情報を話しても罪に問われる可能性がある。これでは重要政策について、国会追及もできない。国権の最高機関である国会をないがしろにするのも同然だ。
憲法改正の布石になる

 新法の概要に対する意見募集期間も約二週間にすぎず、周知徹底されているとはいえない。概要だけでは情報不足でもある。政府の対応は不誠実である。

 米国の国家安全保障会議(NSC)をまねた日本版NSC法案も、秋の臨時国会で審議される予定だ。集団的自衛権をめぐる解釈も変更されかねない。自衛隊を国防軍にする憲法改正への道だ。

 秘密保護法案はその政治文脈の上で、軍事国家化への布石となる。法案には反対する。

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西日本新聞

秘密保護法案 拭えぬ「知る権利」の侵害 2013年09月05日(最終更新 2013年09月05日 10時34分)

 安倍晋三政権は、国の機密情報を漏らした国家公務員らへの罰則を強化する「特定秘密保護法案10+ 件」を秋の臨時国会に提出する方針だ。

 外交・安全保障政策の司令塔となる日本版「国家安全保障会議(NSC)」設置をにらみ、情報管理を強めて米国などとの情報共有を進める狙いがある。

 しかし、この法案が成立したら、国民の「知る権利」や「報道の自由」が侵害される危険性はないのか。私たちは、そのことを強く懸念せざるを得ない。

 法案では、「防衛」「外交」「安全脅威活動の防止」「テロ活動防止」の4分野のうち、所管する省庁の大臣など「行政機関の長」が秘匿の必要性があると判断したものを「特定秘密」に指定する。

 4分野について別表で基本的な項目を列記しているが、「安全保障に関する外国の政府または国際機関との交渉または協力の方針または内容」など、抽象的で分かりにくい表現が目立つ。

 特定秘密の範囲も曖昧だ。行政機関の長の判断で拡大解釈が起こり得る。指定の有効期間は5年とし、延長回数に制限はない。政府にとって都合が悪い情報を意図的に長期間にわたって秘匿することも可能になる。このままでは政府による「情報隠し」にも悪用されかねない。

 政府は、拡大解釈によって国民の基本的人権を不当に侵害することを禁じる規定を法案に盛り込むという。しかし、指定内容や有効期間の妥当性を判断する仕組みが十分とは言い難く、その実効性には疑問符が付く。

 また、特定秘密を故意に漏らした公務員には最長10年の懲役を科すほか、秘密を知ろうとする人にも同様の罰則を設ける。これでは、報道機関が公務員に接触することを妨げかねず、国民に事実を伝える報道の役割が脅かされかねない。

 政府は「正当な取材活動」を罰則対象から外す方針を示しているものの、その定義は明確ではない。運用次第では報道の自由が制限されるのではないか。

 2年前に法制化を提言した有識者会議は「ひとたびその運用を誤れば、国民の重要な権利・利益を侵害するおそれがないとは言えない」と指摘している。人権侵害や報道規制を招きかねない危うさがあることを忘れてはならない。

 公務員が守秘義務を守らなかった場合、国家公務員法では懲役1年以下、自衛隊法では懲役5年以下の罰則規定がある。これまで重大な支障はなく、現行の法令でも十分対応できるのではないか。

 沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の映像流出をきっかけに、当時の民主党政権で法制化が検討されたが、機密内容や処罰対象の範囲をめぐって与党内で意見が分かれ、法案提出を見送った経緯がある。

 安全保障の強化を大義名分として、これほど懸念材料が多い秘密保全の法制化がいま本当に必要なのか。大いに疑問である。安倍政権は再考すべきだ。

=2013/09/05付 西日本新聞朝刊=

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東京新聞 TOKYO WEB

【政治】
「機密」拡大解釈の恐れ 秘密保護法案 見えぬ意義

2013年8月29日 朝刊

 安倍政権が秋の臨時国会に提出を目指す特定秘密保護法案は、「国の安全保障に著しく支障を与える恐れがある」として指定する「特定秘密」が拡大解釈される可能性がある。今でも、公務員が国の機密情報を漏らすと国家公務員法や自衛隊法、日米間の協定に基づく法律で罰せられるのに、政府はさらに厳罰化して、機密情報の対象も際限なく広がりかねない法案を提出しようとしている。 (金杉貴雄)

 菅義偉(すがよしひで)官房長官は二十八日の記者会見で「法案を提出する限り、その国会で成立を目指すのは当然だ。できるだけ国民に分かりやすい形で議論し、成立させたい」と臨時国会での成立に強い意欲を示した。

公務員による情報漏えいを禁止する法律には、国家公務員の守秘義務違反に対する懲役一年以下または五十万円以下の罰金を定めた国家公務員法、「防衛秘密」を漏えいした場合に五年以下の懲役を科す自衛隊法がある。

 加えて、日米相互防衛援助協定(MDA)に伴う秘密保護法では、米国から供与された装備品等に関する情報を漏らせば、最長で懲役十年の罰則となる。
 政府は新たに特定秘密保護法案で、厳罰の対象を広げようとしている。政府が指定した「特定秘密」を漏らした場合には、秘密保護法と同じく最長十年の懲役を科す考えだからだ。

 問題は「特定秘密」の範囲。政府は「防衛」「外交」「安全脅威活動の防止」「テロ活動防止」の四分野と説明する。「安全保障に支障の恐れ」という定義はあいまいで、拡大解釈される余地が十分にある。しかも、この「特定秘密」を決めるのは大臣などの各省庁や行政機関の長だ。

 この法案が成立すれば、政府は重要な情報を、これを盾に隠すことができる。

 例えば、収束のめどが立たない東京電力福島第一原発など原発に関する情報について、政府が「公表するとテロに遭う危険がある」との理由で国民に伏せる事態も想定される。

 実際、原発事故の直後には、政府は「直ちに健康に影響はない」などと繰り返し、国民が知りたい情報を積極的に公表せず、信用を失った。外交でも、沖縄返還の際に財政負担を米国に約束した沖縄密約問題の情報は明らかにしなかった。同法案はそうした傾向をさらに強めかねない。

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北海道新聞

社説

秘密保護法案 脅かされる「知る権利」(8月26日)

 安倍晋三政権が、国の機密情報を流出させた国家公務員らへの罰則を強化する「特定秘密保護法案10+ 件」を秋の臨時国会に提出する。

 外交・安全保障政策の司令塔となる日本版「国家安全保障会議(NSC)」の年内発足をにらみ、情報管理の徹底を図るとともに、同盟関係にある米国との情報共有を進め、安保体制を強化する狙いだ。

 だが、準備中の法案は対象となる秘密情報が曖昧な上、情報を取得した民間人にも罰則が科され、国民の「知る権利」や報道機関による取材の自由が侵害される恐れが強い。

 情報管理は、国家公務員法など公務員に守秘義務を課している現行法で対応可能だ。疑問点の多い秘密保護法案10+ 件は認められない。

 同法は2010年、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で、海上保安官がビデオ映像を流出させたのを契機に民主党政権が検討を始めた。

 法案は守るべき秘密情報の対象を《1》防衛《2》外交《3》外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止《4》テロ活動防止―と規定。このうち特段の秘匿の必要性がある情報を「特定秘密」に指定し、漏えいした公務員に最高で懲役10年の罰則を科す。

 問題は対象の秘密情報の内容に幅広い解釈の余地があることだ。例えば原発事故で政府に都合の悪い情報が漏れた場合、「テロ活動防止」と関連づければ摘発が可能になる。

 不正な手段で、との条件付きながら、特定秘密を取得した民間人も最高で懲役10年の重罰を科される。

 政府は、拡大解釈による基本的人権の侵害を禁じる規定を盛り込んだり、罰則対象から「報道目的」を除外することを検討している。

 だがそれは、法案が人権や報道の自由の侵害の危険性をはらんでいるからに他ならない。そこまでして法整備が必要なのか。

 国家公務員の守秘義務に関しては国家公務員法(罰則・懲役1年以下)や自衛隊法(同懲役5年以下)に規定があり、これらの下で重大な問題が生じた例は見あたらない。

 法整備のきっかけとなった中国漁船衝突事件のビデオ映像は流出前から公開すべきだとの声があった。

 民主党政権は秘密保護法制定を検討する一方で、「知る権利」強化のため情報公開法改正に向けた作業も行った。安倍政権には、こうした観点も抜け落ちている。

 自民党は昨年4月発表した憲法改正草案で、表現の自由を保障する憲法21条について「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動は認められない」との項目を新設した。

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